1 / 4 翻訳のコツ (英日翻訳入門コース English PLUS より) 翻訳の大原則 翻訳の世界へようこそ。これから「イングリッシュ・プラスーで英日翻訳の基礎を学習し ていきましよう。 まず、最初に次の英文をあなたならどう訳しますか。 The sun set behind the hill. 「太陽は丘の後ろに沈んだ」でもいいでしようが、「日は山の端に落ちた」のほうが、風 情があります。英日翻訳の醍醐味は、英文の持つ豊かな内容やイメージを、あなたならでは の日本語で再現し、文章に新たな生命を吹き込むことにあります。翻訳には「これだけ」と いう1つだけの正解はなく、単なる「英文和訳」とは別の、創造的な領域が無限に広がって いるのです。あなたは日ごろ文筆家の書いたものを読んで、「うまいなあ」とうなることが ありますか。こうしたあなたの感受性も、これまで得た様々な知識や人生経験も、すべて生 かすことができるのが翻訳の世界なのです。 さて、これから英日翻訳を学習していくにあたって、常に意識していただきたい「翻訳の 大原則」があります。それは、 英文の構造と意味を正しく理解した上で、「自然な日本語」に移し変える ということです。英文法の知識と英文読解力があれば、一応、英文を訳してみることはでき ます。しかし、これから学習していく「翻訳」は、学校で学んできた「英文和訳」とは異な るものですし、英語の一字一句を直訳した「逐語訳」でもありません。こうした訳では、日 本語の不自然さは免れません。何度も読み返さなければ意味がわからないような日本語で は「翻訳」とは言えないのです。 そこで、この「翻訳の大原則」に則して訳すための「技術」が必要になってくるわけです。 その技術は次の 2 点に集約されると言えます。 1.英文の流れを生かす 2.英文の形にこだわらない では、この 2 点について具体的に説明していきましよう。
2 / 4 1 .英文の流れを生かす 「英文の流れを生かす」とは、書き手の意識の流れを尊重して訳すということにほかなり ません。例えば次の英文を見てみましよう。 I was about to leave home when I saw her standing near the car. この英文には、 大きく分けて次の 2 通りの訳し方があります。 「私は家を出るとき、 彼 女がその車のそばに立っているのを見かけた」と文頭から訳す方法と、 when ~以下の文 の後を先に訳して「私がその車のそばにつている彼女を見かけたとき、私は家を出るところ だった」にする方法です。この 2 つの訳は、文意こそ同じであるものの、後者は書き手の意 識の流れが反映されていない訳になっています。 つまり、 書き手の意識は「家を出ようと した、そうしたら彼女を見かけた」のように流れているのですが、訳文ではそうなっていな いのです。 一般に、前者のように文頭から順に訳していく方法を「訳し下ろし」、後者のように後ろ から訳していく方法を「訳し上げ」と呼んでいます。書き手の意識の流れを尊重し、それを 再現するためには「訳し下ろし」が有効です。特に、複雑な⾧文になればなるほど「訳し下 ろし」の必要性が出てきます。連続して起こる一連の動作や因果関係の説明などで、どうし ても語順通りに訳していかないと誤解が生じてしまう場合もあります。 もちろん、英語と日本語の文の構造の違いから、時には「訳し上げ」した方が良い(そう せざるを得ない)場合もありますが、この講座では、主に「訳し下ろし」に着目してみまし よう。 ■2 .英文の形にこだわらない 英文の構造と意味の正しい理解が不可欠であることは先に述べましたが、英語の構文に 必要以上にとらわれるあまり、不自然な日本語になってしまったのでは意味がありません。 英語と日本語では文の構造が大きく異なるのですから、その点は柔軟に考えて訳すように しましよう。 例えば、英文での主語が必ずしも日本語訳の主語になるとは限りませんし、英文では名詞 であっても日本語では動詞的に訳した方が良い場合があるのです。また、受動態の英文だか らとい。て日本語でも同じように「受け身」で訳すとは限らないのです。詳しくはテキスト で学習します。 さて、「翻訳の大原則」はご理解いただけましたか。後はテキストで様々な英文に触れな がら、「翻訳ポイント 24」で具体的に学習していきましよう。翻訳は、自分以外の誰か〇〇 本の読者や、仕事の発注者( =クライアント)など〇〇 に読んでもらうことを目的としてい ます。ですから今後は英文の正しい理解を前提として、ご自分の訳が自然でわかりやすい日 本語になっているかを常に意識するようにして下さい。
3 / 4 翻訳学習に必要な辞書や参考書 翻訳の学習を始めるにあたって、お持ちの辞書をご確認下さい。最近購人された辞書が翻 訳の学習に適したものであればそれをお使いいたたけますが、例えば英語の勉強は久しぶ りで、学生時代に使用した占い学習用の英和辞典しか持っていないといった方は、 良い機 会ですから、ご予算や今後重点的に学習していきたい分野も考慮しながら、徐々に辞書や参 考書などを揃えていかれることをお勧めします。 まず、 英日翻訳をするにあたって英和辞典が必要なのは言うまでもありません。これは できれば、文法や基本語などについて詳しく解説してある学習用の辞書と、とにかく収録語 彙数が多い辞書の 2 種類を揃えておくと良いでしよう。ご自分に必要な辞書の種類を見極 めたら、書店でいろいろな辞書を引き比べて検討し、より使いやすいと思われるものを購人 しましよう。 最近では紙版以外の電子辞書も沢山出回っていますが、それぞれに⾧所と短所 あります。 引くのに時間がかかり、持ち運びにも不便な紙版の辞書に比べ、軽量小型かつ調べたい語が 瞬時に引ける電子辞書は便利なものですが、 一の単語にたくさんの意味がある多義語の場 合、すべての訳語が一度で俯瞰できる紙版の辞書に比べ、いちいち画面を切り替えていかな ければ全体が見られない点は不便です。いずれにしろ、紙版と電子辞書それぞれの特⾧を理 解したうえで、使い分けると良いでしよう。 以下のリストは、本講座の上級講座「英日出版総合コース」の監修者である河野一郎先生 (東京外国語大学・名誉教授) が、同講座「コースガイ ド」にてお薦めした辞書をベースに、 いくつか加えたものです (いずれも紙版)。購入を考える際の参考にして下さい。 ●英和辞典 『リーダーズ英和辞典』(研究社)・・・27 万語もの見出し語をコンパクトに収録してあり、 翻訳を志す方には必須の辞典。 『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)・・・日本人向けによく考案された、百科事典的 要素を兼ねた信頼できる辞典。 『グランドセンチュリー英和辞典』(三省堂)・・高校生向けの学習辞典だが、could, should, might などの基本的な用法が分かりやすく解説されており、迷ったときに原点に返って基本 機能を確かめるのによい。他に最近出た学習辞書として、『ウィズダム英和辞典』(三省堂)、 『オーレックス英和辞典』(旺文社)などもお勧めできる。 ●和英辞典 『プログレッシプ和英中辞典』 (小学館) ・・・今はワープロの変換キーーつでいろいろ な漢字が出てくるが、漢和辞典を引くよりも簡単に漢字を確かめられるし、自分の使った日 本語表現の意味を逆に英語でもう一度確認できるので、 翻訳家の中には愛用している人が
4 / 4 多い。 ●英英辞典 『コウビルド英英辞典』 (紀伊国屋書店) ・・・英英辞典であるが、 用例が新しいのと、 ある語がどのような感じで聞き手に受け取られているか、細かなニュアスまで説明がつい ている点が役に立つ. ●国語辞典 「新潮国語辞典 現代語・古語』 (新潮社) ・・・表題通り、 現代語と古語の双方を載せ ているので、少々古い表現を使いたくなったときに極めて便利。 「福武国語辞典」 (ベネッセコーポレーション) ・・・ 『安心』を引くと、使用例ととも に類義表現として「胸をなで下す、息をつく、肩の荷がおりる、愁眉をひらく、大船に乗っ た気持ち」などと載っているのが強み。 翻訳に必要なパソコンのスキル 最近では、パソコンの普及率も高まってきました。このパソコンを使いこなす力は、翻訳 家にとってももはや不可欠なスキルになりつつあります。確かに翻訳をするだけなら、紙と 辞書とペンさえあれば可能ですが、実際の仕事を始めてみるとすぐに、「私はパソコンが苦 手だから使わない」などと言ってはいられないことに気がつくはずです。 現在の翻訳の現場では、紙に手書きで翻訳した原稿を納品するということは、(一部のペ テラン翻訳家の先生を除き)ほとんどあり得ないと考えて良いでしよう。一般的な翻訳家な ら、作成( =翻訳)した「文書ファイル」を「電子メール」などでクライアントに送信して納 品し、紙の辞書では調べがつかなかった事柄を、「インターネット」で検索しながら調査を 行う、といったことをごく普通に行っています。また、最近ではオンライン上の辞書(「英 辞郎」など)や、CD-ROM 版の辞書も充実してきていますので、こうした情報やデータに自 由にアクセスできる環境にあることも、翻訳家としての実力の一部と言っても過言ではあ りません。まだパソコンをお持ちでない方も、こうした技術は少し慣れればそれほど難しい ものではありませんので、その点はご安心下さい。 パソコンがいかに翻訳家にとって不可欠なものになっているかについては、 TEXTBOOK3 の武舎広幸先生のエッセイ「翻訳とインターネット」をお読み下さい。また パソコンを使用した具体的な調べ物の方法については、安藤進(著)「Google に聞け!英語の 疑問を瞬時に解決」(丸善株式会社)などが役立ちます。 以上